生成AIの進化で戦略コンサルティングビジネスはどう変わるか?

変わる風景

私がコンサルタントとしてのキャリアを歩み始めた20年前、情報収集といえば図書館や専門データベースでの地道な作業が当たり前だった。一つの業界分析に数週間を要することも珍しくなかった。それが今や、生成AIの台頭により、コンサルティングの風景は一変している。

最近、私の携わるビジネスには新規事業企画の仕事が増えているが、ChatGPT、Claude、Perplexity、Gemini、Canvaなど、アイディエーション壁打ち・調査・分析・構造化・デザインなどなど・・・生成AIを使わない日はないほど実務に浸透してきている。

こういった変化は、私たち戦略コンサルタントの存在意義そのものを問い直す契機となっている。


生成AIがもたらした変革

情報収集の革命

外部環境分析において、世界の市場動向、競合の戦略、類似製品・サービス、協業可能性のある企業や団体など、調査したい内容を入力すれば、数分で裏付け情報のリンク付きレポートが生成される。一昔前なら数日かけて行っていた作業が、今や「ディープリサーチ」という名の下に一瞬で完了する。RAG(検索拡張生成)技術の発展により、幻覚(ハルシネーション)も減少している。

ビジネスモデルのアイディエーションや、大量のレポートの構造化にも生成AIは威力を発揮する。クライアントとの打ち合わせ前の壁打ち相手としても重宝している。

問われる存在意義

こうした状況下で、必然的に浮上する問いがある。

「戦略系のコンサルタントはいらなくなるのではないか?」

結論から言えば、現時点では「No」だ。

その理由を掘り下げていきたい。

AIの限界と人間の強み

統計的思考と創造的飛躍

生成AIの過去事例調査の精度は高く、ビジネスモデルも網羅的かつ複合的に検討してくれる。一見すると完璧に思えるかもしれない。

しかし、AIの本質は統計に基づいた動きにある。統計とは近似値から探すことが基本だ。点と点の位置が近い調査は行えても、前例のないものに対し、人間のひらめきのように、一見して点の位置が遠い潜在的な可能性には気づけない。

土台の「下地」となる部分の調査は行えるが、他社に勝つための「土台=発想」は生まれてこないのだ。

実例から見る差異

先日、ある若手コンサルタントと仕事をした際の出来事が印象的だった。
彼・彼女はPEST(政治・経済・社会・技術)分析とSTP(セグメント・ターゲット・ポジショニング)を、クライアント企業が属する業界「だけ」に焦点を当てて行ってきた。

PESTまでは良かったが、業界を俯瞰すると、需要面では既存商材機能の向上限界があり、供給面では最上流のリードタイムに課題があることが判明した。こうした状況では、業界内での消耗戦となり、単価を下げるか、発展途上市場への先行参入といった選択肢しか見えてこない。AIだけで戦略を立てるなら、結局は資本力の差が勝敗を分けることになる。

ニッチで勝つしかない後発企業やスタートアップは、これに打ち勝つための「発想」が不可欠だ。

現代では、大企業においても、ビジネスモデルは飽和状態にあり、単一企業でQCD(品質・コスト・納期)のバランスだけで市場で勝ち残ることは非常に難しくなっている

少なくとも、「モノ×コト」の複合、可能であれば業種MIX、競合との協業、業界団体や研究機関も含めた日本連合としてのオープンイノベーションという筋道を立てなければ、世界はおろか国内でも勝ち残ることは困難だ。

この潜在的な組み立てを、過去に築いた人脈からの非公開情報をもとに、まだ見ぬ点と点をつなぐ「発想」することは、インキュベーターやベテランコンサルタントの強みの一つである。

生成AIにも推論機能はあるが、前例のない潜在的な業種の組み合わせはAIが苦手とする領域だ。

戦略やアプローチ構築の職人芸

段取りの妙

潜在的な可能性を見出す経験値が人間に分があるように、段取り構築も同様だ。

先ほどの若手コンサルタントは、AIを使いこなし、各種調査業務には強い自信を持っていた。しかし、調査後の「料理の仕方」については、まだまだ私に分がある。彼は具体的な作業を圧倒的な速さでこなすが、大きな絵図を描いたうえでバックキャストするというアプローチの組み立てができていなかった。

  • そもそも、10年先のビジネスモデルの何の基になる調査なのか?
  • ステークホルダーは誰であり、誰にどう動いてもらいたくて、この調査をしているのか?(目先の経営者だけでなく、出資者や業界関係者等も含めて)
  • この結果をどのように料理して伝え、次にどういう段取りを踏めば前進できるのか?

ビジネスを組み立てるアプローチ自体はAIも答えられる。しかし、生成AIを過信した若手コンサルタントのアプローチ案には、重要な視点の抜けが目立った。
具体策を検討している差異に、抽象度を上げて全体像・プランを再考し、そのうえでまた具体策を検討するという、「具体と抽象の繰り返し」をするという習慣が身についていないこともあるだろう。

人間関係の機微

競合、協業先も含めたビジネス関係者全員の個性、利害を考慮したうえで、どのようにして「針に糸を通すか」は、依然としてベテランの職人芸が生きる領域だ。

力強く正論を述べれば話が通るのはドラマの中だけの話であり、あらゆるコミュニティの政治を勘案して、地雷を避けつつ、人の心を揺さぶる説得をする能力の価値は、人間が意思決定を続ける限り色褪せることはないだろう。

成功のアートと失敗のサイエンス

メガネのOWNDAYSの田中修治氏は「成功はアートであり、失敗(しないようにすること)はサイエンスである」と述べている。

私が過去に所属していた企業でも「最後はロジックではなく、熱意だ」という言葉が重んじられていた。

失敗しないための「穴埋め問題」は、生成AIの登場により格段に楽になった。下地固めや、土台の上の具体策の整理、失敗を避けるための調査や実現性の確証を得るための補助としてAIを使うことは非常に有効だ。この領域については、短納期化が進み、実質的な単価は下落するだろう。

しかし、成功のためのアートの骨格作りや熱意の伝播により、経営者を動かすことが、これからの戦略コンサルタントにとってますます重要になってくる。

AIとの共存による新たなコンサルティングの形

人間の強みを活かす

生成AIの台頭により、私たちコンサルタントは自らの強みを再定義する必要がある。それは単なる情報収集や分析ではなく、以下のような領域だ。

  1. 非連続的発想力: 過去の事例や統計からは導き出せない、創造的な飛躍による新たな価値創造
  2. コンテクスト理解: クライアント企業の歴史、文化、暗黙知を含めた深い理解
  3. 関係構築能力: 多様なステークホルダーとの信頼関係の構築と利害調整
  4. 変革の推進力: 単なる提案にとどまらず、実行を後押しする情熱と粘り強さ
  5. 取組姿勢: 信頼を勝ち得るための期待値を超える意識や行動 期待値は「高さ」と「角度(着眼点)」の両面で超える

具体的な変化と対応

私自身、この1年で仕事のやり方を大きく変えた。かつては調査と分析に多くの時間を費やしていたが、今はそれらをAIに任せ、浮いた時間を以下に振り向けている。

  1. クライアントとの対話の深化: 表面的なニーズではなく、想い・ホンネや本質的な課題を掘り起こすための対話
  2. 業界横断的な人脈構築: 異業種間の架け橋となるべく、多様な業界の知見者とのネットワーク強化
  3. 実行支援の充実: 戦略策定だけでなく、実行段階での伴走型支援の比重を高める
  4. 自己研鑽の質的転換: 専門知識の蓄積から、創造性や共感力を高めるための学びへシフト

新たな価値提供モデル

生成AIの普及により、従来型の情報提供や分析サービスの価値は急速に低下している。これに対応するため、コンサルティングの価値提供モデルも変革が必要だ。そう考えると、最近、伴走型のコンサルティングサービスが増えてきていることもうなづける。

  1. 成果連動型報酬の拡大: 単なる工数ベースから、実際の成果に連動した報酬体系へ
  2. 継続的パートナーシップ: 単発プロジェクトから、中長期的な伴走型支援へ
  3. エコシステム構築: クライアント企業を中心とした新たな事業エコシステムの設計と実現
  4. 知の共創: クライアントがコンサルに丸投げして「生成AIでもできるわ」ではなく、コンサルタントとクライアントが共に学び、創造するプロセスの重視

(図1. AIと人間の価値提供のすみわけとこれに基づく価値提供モデル)


まとめ – 生成AIと共に進化する戦略コンサルティング

生成AIは、戦略コンサルティングの「何を」ではなく「いかに」を変えつつある。情報収集や分析といった基礎的作業は効率化され、コンサルタントはより高次の価値創造に集中できるようになった。

しかし、真に価値ある戦略—競争優位をもたらし、持続可能な成長を実現する戦略—の創出には、依然として人間の創造性、共感力、そして情熱が不可欠だ。

Don’t trust them blindly , but use them wisely
生成AIを道具として使いこなしながら、人間にしかできない価値創造に注力する。

それが、これからのコンサルタントの進むべき道ではないだろうか?

私自身、この変革期をチャンスと捉え、クライアントと共に新たな価値を創造していきたい。生成AIという強力な同僚を得た今こそ、戦略コンサルタントとしての真価を発揮する時だと確信している。

※補足
当投稿では、戦略コンサルティングに焦点を当てたが、オペレーショナルコンサルティングも同様だ。
オペレーショナルコンサルティングの 生成AIと比較したコンサルタントの優位性 については、
拙著の「プロキュアメント ゼロ」も参考にしていただけると幸甚である。




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